(前略)
最後は、日本で編纂されたアンソロジーを。『鼻のある男』は、イギリスの女性作家による怪奇小説八篇を収録している。発表された年代は、1860年代から1930年代までと幅広い。怪奇小説の黄金時代、と言ってもいいだろう。
ローダ・ブロートンの表題作は、新婚旅行で遭遇した怪人物にまつわる恐怖を描いたもの。たいていの男に鼻はあるものだが、ここに出てくる男は巨大な鼻の持ち主。……と書くと、なんだかユーモラスな話のようだが、そのユーモアがかえって不気味さを際立たせている。表題作にふさわしい、密度の高い作品だ。訳者による解説にもあるように、鼻の描写にフロイト的な解釈をしてみたくなる作品でもある。
メイ・シンクレア「仲介者」は、収録作中では最も年代の新しい1932年の作。怪奇小説の典型に則るだけでなく、子どもをめぐる現代的なテーマを扱った心理サスペンスとしても味わい深い作品である。
古典的な怪奇小説好きにおすすめしたいアンソロジーだ。