スペイン黄金の世紀の実態
十六世紀―海を制する者は世界を制するといわれたスペインの無敵艦隊。その背後にはカルロス五世とフェリッペ二世がいた。そして、彼らは黄金の世紀といわれる百年の歴史を築き、世界のすべてを変えたのである。
本書は前著『不滅のカルロス五世』に続く第二弾であるが、その冗舌の筆鋒は依然として健在である。それは短文の引用をつないだ独特の文体であるが、読み進めていくにしたがい、もう一つのヨーロッパの歴史が浮上してくるのだ。少なくとも教科書で読んだ歴史とは別の豊饒(ほうじょう)たる歴史のエピソードが展開し、ときには噴水のように、あるいは火山のように噴出する勢いなのである。
ヨーロッパの「れきしとは要するに政略結婚と親交と略奪の繰り返しと国王の首のすげかえの歴史であったといえなくもない。その度に犠牲になってきたのは民衆で、あっちへうろうろこちらへうろうろで、為政者にほんろうされ続けたのである。その上、繰り返される陰謀と殺りくは、時代が変わっても一向に改まらない愚行であったことはいうもでもない。
このように権力をほしいままにしてきた権力者も、やがては落日を迎えることになるが、著者は「あとがき」のなかでいみじくも「カルロス五世とフェリッペ二世が統合しました百年、のちにスペインの黄金の世紀≠ニ呼ばれます十六世紀は、日の没することがない帝国≠ノ伸し上がったからなのではありません。こうして拡大しました領土が、一本また一本と歯が抜け落ちるように、支配圏から脱落して退廃する十九世紀が白銀の世紀≠ニ称されるのに対比される言葉なのです」とのべている。
何しろ570ページをこえるボリュームにはただ圧倒されるばかりだが、次からつぎへと展開される歴史絵巻には本書をおいてほかにはあるまい。
ともかくカルロス五世からフェリッペ二世にわたるケンランたる歴史の内実には目からウロコの部分があり、反面、人間の愚かさにも気づかされた。読んでとく酢r歴史絵巻だ。(文芸評論家・嘉瀬井整夫)